相続が発生し、被相続人が遺言書を遺していない場合、相続人全員で遺産分割の協議を行う必要があります。
相続税の申告は、被相続人が死亡したことを知った翌日から10ヶ月以内に申告書の提出と納付の義務があり、期限が決められていますので、迅速に手続きを進める必要がありますが、さまざまな理由で遺産分割が進まないことがあります。
目次
- 遺産分割の流れ
- ①遺言書の有無を確認する
- ②相続人を確定する
- ③財産の調査をする
- ④遺産について話し合いを行い遺産分割協議書を作成する
- ⑤相続税の計算を行う
- 遺産分割が進まない3つの理由
- 理由① 遺産の内容と額がわからない
- 理由② 配分が決まらない
- 理由③ 税金の計算方法がわからない
遺産分割の流れ
まずは遺産分割のおおまかな流れについて確認しておきましょう。
①遺言書の有無を確認する
相続が発生したら、まず遺言の有無を確認します。遺言には大きく分けて公正証書遺言と自筆証書遺言に分けることができます。
公正証書遺言は公証役場で検索をしてもらうことで有無を確認することができます。自筆証書遺言は自宅や貸金庫などで保管されている可能性があります。メモ書きのようなものでも法的に有効な遺言となる可能性がありますので、捨てずに保管しましょう。
自筆証書遺言の場合は家庭裁判所で検認を受ける必要があります。
近年始まった法務局での保管制度を活用している場合、遺言書が法務局で保管されている可能性があります。法務局の遺言書保管制度を活用している場合は法務局で検索することができます。
手続きを進めてから遺言書が見つかった場合、手続きをやり直す必要が出る可能性があるため、始めにしっかりと探す必要があります。
②相続人を確定する
法定相続人は順序があり、配偶者は常に相続人、第一順位が子、第二順位が親などの直系尊属、第三順位が兄弟姉妹です。
子が亡くなっている場合、孫が代襲相続人となり、兄弟姉妹が亡くなっている場合は甥・姪が代襲相続人となります。
誰が相続人になるの?
https://www.tokyoto-souzoku.jp/souzoku-column/kisochishiki/
法定相続人を確定、法的に証明するためには被相続人が生まれてから亡くなるまでの戸籍謄本を集める必要があります。
戸籍謄本は従来、本籍地の市区町村役場で収集する必要がありました。本籍地が遠方にある場合は郵送で取得する必要があり、面倒な作業でしたが、2024年3月からは戸籍の広域交付制度が導入され、本籍地以外の役場でも取得できるようになりました。
法務省HP
https://www.moj.go.jp/MINJI/minji04_00082.html
戸籍謄本は金融機関の手続きや不動産の登記にも必要です。原本を提示し、コピーしてもらう必要がありますが、生まれてから亡くなるまでの戸籍謄本はそれなりの分量になりますので、毎回コピーをしていると時間がかかります。
法務局に依頼することで法定相続情報一覧図を作成することができます。法定相続情報一覧図は1枚の紙で法定相続人を証明することができますので非常に便利です。転籍などで戸籍謄本の数が多く分かれている場合は利用を検討してみても良いでしょう。
③財産の調査をする
相続人を確定することができたら財産について調査する必要があります。
できれば生前に資産の一覧表を作っておくことが一番有効な手段です。財産の一覧があれば、スムーズに財産把握ができるでしょう。
相続が発生した後で、相続人が調査する必要がある場合は通帳を探すか、金融機関からの郵送物、メールなどで確認するしかありません。不動産は毎年送られてくる納税通知書で確認することができます。
各財産の評価額を確認し、一覧を作成してきましょう。
④遺産について話し合いを行い遺産分割協議書を作成する
相続人・財産について確定することができ、遺言がない場合は遺産分割の話し合いを行います。不動産や金融資産、金などの現物資産や価値のある絵画や美術品などがあれば誰がどのような割合で相続するか細かく決めていきます。
相続人が多い場合や家族同士が遠方に住んでいる場合、何度も集まることは難しいため、メールや電話なども活用してやり取りする必要があるでしょう。配分について折り合いがつかない可能性がある場合は早めに段取りして話し合いの機会を設ける必要があります。
生前に贈与を受けている人がいる場合や、介護の負担が1人に偏っていた場合は配分に納得がいかず、時間がかかるケースも多くあります。法定相続割合が基本となりますが、双方がお互いの事情をよく考慮し、配分について協議する必要があります。
配分が決定したら誰が何を相続するか書面にする必要があるため、遺産分割協議書を作成します。遺産分割協議書の作成が難しい場合相続の専門家である司法書士に相談することをおすすめします。
⑤相続税の計算を行う
相続税の計算は法定相続割合通りに取得したものと想定して相続税の総額の計算を行い、取得する財産に応じて按分して相続税の計算を行います。また、財産の種類や取得する人によって特例を利用でき、評価減につなげることができます。
そのため、財産を把握し、誰が何を相続するかを決めないと相続税の計算をすることはできません。相続税の申告は相続発生の翌日から10ヶ月以内に行う必要があります。なお、財産が基礎控除(3,000万円+法定相続人×600万円)の範囲内の場合は相続税の申告は必要ありませんが、特例などを活用することで相続税が0円になる場合は申告が必要となります。
忙しい中での10ヶ月はあっという間に過ぎてしまいますが、納税義務のある者が相続税の申告に遅延すると加算税を請求される場合がありますので、期限内に申告を行う必要があります。
遺産分割が進まない3つの理由
相続が発生すると遺産分割を進め、不動産の登記や金融機関の名義変更、相続税の申告を進める必要があります。
しかし、実際にはさまざまな理由で手続きが進まないケースがあります。遺産分割が進まない3つの理由と注意点、それぞれの対処法を以下に具体的に解説します。
理由① 遺産の内容と額がわからない
財産の全体がわからないと相続人同士で交渉することもできませんので、遺産分割協議を成立させるためには、財産をまとめて全体像を掴んでおく必要があります。
そのため、亡くなった人が利用していた金融機関に預けている預貯金や株式、自宅以外の土地・建物など不動産、現金や預金などの現物資産の保有状況がわからない場合、なかなか手続きが進められない事例も多いです。また、分割方法を決定した後に別の財産があることが判明した場合、再度全員が納得するまで話し合いを続ける必要が生じます。
配偶者が相続人となる場合は、取引のある金融機関などについて比較的財産の把握がしやすい傾向がありますが、遠方に暮らしている子供や兄弟姉妹や甥・姪が相続人となるケースでは取引の金融機関が分からないケースも多く、財産の把握が難しい場合も多いでしょう。
理由② 配分が決まらない
遺産分割は相続人全員で合意して、手続きを進める必要があります。
相続財産の分割が進まない理由の一つに親族同士の関係が悪く、頻繁に連絡をとりあうような仲ではない場合や遠方に相続人がいる場合、配分が問題となるケースがあります。また、認知症で意思確認ができない相続人がいる場合などは成年後見の申立てを行う必要があるケースもあり、時間がかかります。
不動産や事業をおこなっている際の自社株式など分けにくい財産がある場合や、多額の生前贈与など特別受益を受けている相続人がいる場合や寄与分がある場合は配分の偏りが生じることが原因となり、兄弟間等で争いに発展する可能性が高く、特に注意が必要です。
遺産分割協議は、時間と忍耐を持って、相続人同士の交渉を続けることも重要です。感情が高ぶる場面もあるかもしれませんが、お互いに理性的かつ合理的な解決策を模索することが大切です。
また、遺産分割協議と言っても、必ずしも一堂に会して行う必要はありません。手紙や電話、メールやWEB会議システムなどで遺産分割の意思疎通は可能です。手段はどうでも合意が出来れば良いのです。トラブルにまではなっていないけれど、それぞれが意見や権利を主張し、分割協議がなかなか進まない場合は、相続に詳しい司法書士に相談してみるのも良いでしょう。
一度トラブルに発展すると問題を解決することは難しいので、なかなかまとまらず、時間もかかります。トラブルを未然に防ぐために遺言書を作成しておくなど生前に対応しておくと良いでしょう。遺言書を作成しておくことで法定相続分とは異なる内容にする場合でも、配分を明確にすることができます。
遺言が生前に作成されていることを相続人が知らないケースもあります。公正証書の遺言や自筆の遺言を法務局で保管する制度も始まりましたので、遺言を検索し、遺言の有無を確認しましょう。ある程度手続きを進めてから遺言が発見された場合、初めからやり直す必要が出てきますので、最初に探しておくことが重要です。
法律上有効な遺言であったとしても、遺留分を侵害する遺言であった場合、遺言通りに手続きできない可能性があります。遺留分を侵害された相続人が遺留分を請求することでかえって対立することも多いので注意が必要です。遺留分を侵害している遺言が発見され、トラブルになりそうな場合は弁護士や司法書士が在籍する法律事務所など専門家にサポートを依頼することを検討することをおすすめします。
理由③ 税金の計算方法がわからない
被相続人の財産が基礎控除を超える場合、財産を取得する相続人は相続税の申告を行う必要があります。
相続税の計算をするための財産の評価や特例の適用可否の判断は非常に複雑で、知識がない人が相続税の計算を行うことは簡単ではありません。例えば、不動産の評価を行う場合、土地は路線価、建物は固定資産税評価で計算を行います。アクセスが良い土地は売値も相続税評価も高くなりますが、路線価は実際に売却する際の価格とは異なりますので、注意しましょう。
相続税の申告は相続開始から10ヶ月と短い期間で行う必要がありますので、早く手続きをする必要がありますが、誤った申告をすると税務調査で指摘される可能性がありますので、慎重に行う必要があります。
自分で行うことは困難と判断した場合は早めに税理士に依頼する方がよいでしょう。費用はかかりますが、税理士に依頼することで各種書類の作成負担を減らすことができますし、間違いなく確実に申告を行うことができます。しかしながら、相続税・贈与税に強い税理士はそれほど多くはいません。税理士に依頼する際は相続税や相続税に関連のある贈与税に強い税理士に依頼することが重要です。
この記事の執筆・監修
清澤 晃(司法書士・宅地建物取引士)
清澤司法書士事務所/中野リーガルホームの代表。
「相続」業務を得意とし、司法書士には珍しく相続不動産の売却まで手がけている。
また、精通した専門家の少ない家族信託についても相談・解決実績多数あり。