相続登記義務化で所有者不明土地の発生を予防する
今までは相続登記は義務ではありませんでした。その結果・・・
不動産の名義が何十年も前に亡くなっている人のままという不動産がたくさんあります。名義人が亡くなって、その子どもが亡くなって、孫が亡くなって・・・枝分かれで相続人が増えた結果、相続人をたどるのに膨大な時間と手間と費用は避けられず、場合によっては相続人が判明しないこともあります。相続人にたどり着いたところで、不動産の相続手続きに必要となる遺産分割協議等のため大人数の相続人の意見をまとめることは容易ではありません。
<所有者不明土地>
所有者不明土地は九州本島(約367万ha)を超えると言われています。国土交通省が2016年にまとめた資料によると、不動産登記簿において所有者の所在が確認できない土地の割合は20.1%に及ぶと報告されています。この20.1%の内訳として、相続が理由となって所有権移転未登記の土地は、およそ67%にも及ぶとのことです。
この所有者不明土地が生む問題としては、所有者不明土地は、公共事業や復旧・復興事業を円滑に進める上での妨げとなるほか、所有者不明土地が空き地として長い間放置されると、雑草の繁茂やゴミの投棄など管理不全の状態となり、周辺住民の生活に悪影響を及ぼすおそれがあります。
<相続登記がなされない原因>
相続が発生してもそれに伴って相続登記がなされない原因として、これまで相続登記の申請が義務ではなく、任意であったことが挙げられます。そのため、申請をしなくても相続人が不利益を被ることが少なかったことや相続した土地の価値が乏しく、売却も困難であるような場合には、費用や手間をかけてまで登記の申請をする意欲がわきにくいことが指摘されてきました。しかし、相続登記がされないと、登記簿の情報は古い状態のままになり、この状態が長年放置されることが所有者不明土地増加の一因となっていました。そこで、所有者不明土地の発生を予防するため、相続登記の申請が義務化されました。
<相続登記義務化の内容>
相続で不動産を取得した相続人に対し、取得を知った日から3年以内に、相続登記の申請を義務付けられました。
<義務違反の内容>
正当な理由がないのにその申請を怠ったときは、10万円以下の過料の適用対象となります。施行日前の相続でも、未登記であれば、義務化の対象となります。
<相続人申告登記>
相続人が申請義務を簡易に履行できるよう、負担の軽い新たな手続として「相続人申告登記」が創設されました。
相続人申告登記(令和 6 年 4 月 1 日施行)
不動産を所有している方が亡くなった場合、その相続人の間で遺産分割の話し合いがまとまるまでは、全ての相続人が法律で決められた持分(法定相続分)の割合で不動産を共有した状態になります。この共有状態を反映した相続登記を申請しようとする場合、法定相続人の範囲や法定相続分の割合を確定しなければならないため、全ての相続人を把握するための資料(亡くなった方の出生から死亡に至るまでの戸籍謄本など)の収集が必要となります。そこで、より簡易に相続登記の申請義務を履行することができるように、新たに「相続人申告登記」の仕組みが設けられました。相続人申告登記は、それぞれの相続人が単独で申告することができ、添付書面も限定されるため、相続登記の申請義務を簡易に履行することが可能になります。
登記簿上の所有者について相続が開始したこと、及び自らがその相続人であることを登記官に申し出ることで、相続登記の申請義務を履行したものとみなされます。この申出がされると、申出をした相続人の氏名・住所等が登記されますが、持分の割合までは登記されないので、全ての相続人を把握するための資料の添付は必要ありません(自分が相続人であることが分かる戸籍謄本等を提出すれば OK)。また、一人の相続人が相続人全員分をまとめて申出することもできます。
(※)相続によって権利を取得したことまでは公示されないので、相続人申告登記は従来の相続登記とは全く異なるものです。
<相続土地国庫帰属制度>(令和 5 年 4 月 27 日施行)
法務省マンガで読む法改正・新制度→https://www.moj.go.jp/content/001393331.pdf
都市部への人口移動や人口の減少・高齢化の進展などを背景に、土地の利用ニーズが低下する中で相続を契機として取得した土地所有に対する負担感が増加しており、このような土地が所有者不明土地の予備軍となっていると言われています。そこで、所有者不明土地の発生予防の観点から、新たに「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律(相続土地国庫帰属法)」が公布され、相続等によって土地の所有権を取得した相続人が、今後その土地を利用する予定がない場合、法務大臣の承認により、土地を手放して国庫に帰属させることを可能とする制度が新たに創設されました。
<申請できる人>
基本的に、相続や遺贈によって土地の所有権を取得した相続人であれば、申請可能です。制度の開始前に土地を相続した方でも申請することができますが、売買等によって任意に土地を単独で取得した方や法人は対象になりません。また、土地が共有地である場合には、相続や遺贈によって持分を取得した相続人を含む共有者全員で申請していただく必要があります。
<申請できる土地>
次のような通常の管理又は処分をするに当たって過大な費用や労力が必要となる土地については対象外となります(要件の詳細については、今後、政省令で定められる予定です。)。
<国庫帰属が認められない土地の主な例>
① 建物、工作物等がある土地
② 土壌汚染や埋設物がある土地
③ 危険な崖がある土地
④ 境界が明らかでない土地
⑤ 担保権などの権利が設定されている土地
⑥ 通路など他人による使用が予定される土地
<要件審査・承認>
申請後、法務局による書面審査や実地調査が行われます。
なお、運用において、国や地方公共団体に対して、承認申請があった旨を情報提供し、土地の寄附受けや地域での有効活用の機会を確保することが予定されています。
<負担金の納付>
申請時に審査手数料を納付するほか、国庫への帰属について承認を受けた場合には、負担金(10 年分の土地管理費相当額)を納付する必要があります。
まとめ
相続登記を何世代も放置した結果、いざ不動産について何かしらの手続きをするときに膨大な費用や時間がかかるケースをいくつも見てきました。皆さまにおかれましては義務化されることで負担に思われるかもしれませんが、早めの手続きをすることはみなさんにとってきっと良い結果になることと思います。不動産の名義人をはっきりさせること、空き家として放置しないことをお勧めします。手続きにお困りの方は一度ご相談にお越しください。相続に関する手続きから不動産の売却まですべて清澤司法書士事務所で行います。
清澤司法書士事務所は相続に特化しており豊富な実績を有しております。
わからないことはぜひお気軽にご相談ください。
この記事の執筆・監修
清澤 晃(司法書士・宅地建物取引士)
清澤司法書士事務所の代表。
「相続」業務を得意とし、司法書士には珍しく相続不動産の売却まで手がけている。
また、精通した専門家の少ない家族信託についても相談・解決実績多数あり。