共有不動産は1人では売却できない!?
共有とは、1つの物を複数人で所有することを言います。
共有の不動産を賃貸したり、大規模修繕や建て替えを行ったり、売却する際は一人の意見だけではできず、他の共有者の関与が必要となります。そのため、単独で所有権を有している場合とは異なり、共有は「身動きがとりずらい」と言えます。
●変更・処分行為・・共有者全員の同意が必要(民法251)例:建替え・売却など
●管理行為・・・共有者の持分価格の過半数で決する(民法252)例:賃貸に出すなど
●保存行為・・・各共有者単独で可能(民法252ただし書)例:共有物の修理など
自己所有の持分だけなら単独で売却可能
自己所有の持分に関しては、他の共有者の関わりなくして売却可能です。しかし、共有持分を第三者が買うことは想定されず、不動産業者が買主となるケースがほとんどです。なぜなら、共有持分は不動産の一部の権利なので、購入したところで自由に使うこともできず、他の共有者とのトラブル発生率が高いからです。
購入しても使えない上にトラブルも起きるとなると、価格も期待はできません。不動産全体の所有権の売却で価格が3000万円でも、持分1/3だけ売るときの価格は全体の1/3の1000万円とはなりません。相場よりもかなり安くなってしまいます。また、他の共有者にとっては、見知らぬ他人が新たな共有者となるわけですから、関係性の複雑化にあまり良い気はしないかもしれません。ただ、価格を気にされないのであれば、不動産業者に自分の持分だけを売却するのも一つの手段と言えるでしょう。
相続発生で複雑化が加速!?
共有者のうちの誰かが亡くなれば、その共有持分は相続人へと承継されます。共有者1人の死亡によりその相続人が新たな共有者となり、また別の共有者の死亡によりその相続人が加わり・・・と気が付けば共有者の数が枝分かれに増えていき、かなりの人数になることも珍しくありません。
さらに相続が発生するたびに当然関係性は希薄になり、いざ手続きをしたいと思ったときには、共有不動産をどうするか全員で協議を行うことは困難を極めます。お金で解決したり裁判で解決したり何とか決着がついたとしても、かなりのお金と時間を要すことでしょう。
共有不動産のあるあるトラブル!共有解消法は?
●だれが住むか、だれが使用するか問題
●賃貸するか問題
●建物の立て替えや土地の造成などの問題
●さまざまな金銭問題
共有解消法
1⃣共有者の一人が使用し、その他の共有者の持分を買い取る→価格賠償
特定の共有者が他の共有者の持分を買い取ることで共有解消
2⃣第三者に売却し、代金を分ける→換価分割
共有者全員で不動産を売却し、持分割合に応じて持分価格を取得することで共有解消
3⃣不動産そのものを分割して、各共有者の単独所有する→現物分割
物理的に分筆し、それぞれを単独所有とすることで共有解消。分筆することで経済的利益を損ねないか注意が必要。
共有物分割請求訴訟
話し合いで解決が見込めない場合は、最終手段として裁判所へ強制的に共有の解消を求める「共有物分割請求訴訟」があります。
当事者間だけの話し合いで解決した場合と比べると、裁判は時間も費用かかりますし、心身ともに疲れます。なにより共有者同士の関係性の修復は難しいでしょう。
共有物分割請求訴訟における主な解決方法は、上記に記載の価格賠償、換価分割及び現物分割です。
共有持分の放棄
共有持分を放棄すると民法255に従い、他の共有者に帰属されます。
『(民法255)共有者の一人が、その持分を放棄したとき、又は死亡して相続人がないときは、その持分は、他の共有者に帰属する。』
持分の放棄は単独行為と言われており、意思表示で効力発生し、他の共有者の持分割合に従って他の共有者へ帰属されます。そして、持分を放棄した後は「持分移転登記」が必要となりますが、この登記をするには放棄する者だけではなく、共有者全員の協力が必要です。万が一登記に協力していただけない場合は、「登記引取請求訴訟」を提起することができます。
共有名義のメリット
●住宅ローン控除を二重に受けられる
●売却益にかかる特別控除を人数分受けられる
●不動産の売却益にかかる不動産譲渡所得税の負担を軽減する3000万円特例を共有者それぞれが利用可
詳しくは提携の税理士より説明いたします。
番外編!賃貸不動産の共有問題を救う家族信託
不動産の共有をお勧めできない最大の理由は、何かにつけて複数人の関与が必要となる点。
ここでは賃貸不動産を相続したものの共有を避けられなかった時の救済方法をご紹介します。
救世主!家族信託
共有状態は避けたほうが良いことはわかっていても、税金の問題や、どうしても共有状態を解消できない事情がある場合は、家族信託の利用がおすすめです。
例えば、収益アパートを相続によりABC3人の子どもが相続し、共有となっているケース。共有者3人とも高齢で今後が不安になってきたなどの問題がある場合は、共有者のうちAの子どもを受託者とし、ABC3人を委託者兼受益者とすることで、今までと変わらず収益は共有者ABCに、不動産の管理・変更・処分は受託者であるAの子どもが単独で行うことができます(どこまで受託者が単独で手続きを行えるかは信託契約書で柔軟に決めることができます)。
とにかく、共有不動産については、専門家の意見を聞くことをおススメします。目先の利益や手続きの単純さに目がくらみ、考えなしに共有にすると、後々問題が発生する確率はものすごく高いということはお分かりいただけたことと思います。共有状態を解消したいと考えていらっしゃる方はぜひご相談ください。
この記事の執筆・監修
清澤 晃(司法書士・宅地建物取引士)
清澤司法書士事務所の代表。
「相続」業務を得意とし、司法書士には珍しく相続不動産の売却まで手がけている。
また、精通した専門家の少ない家族信託についても相談・解決実績多数あり。