相続にまつわる税金は不動産しだい? 今から確認しておきたい、特例の適用要件
高齢大国ニッポンの日常風景と化した高齢者の一人暮らし。今はまだ元気だからいいけど、もしもの時にどうしたら? 今回は相続した自宅の売却をテーマに、2016年の税制改正大網で創設された『小規模宅地の特例』について遺言書の有無も含めた事例をご紹介します。
関係者の状況によって効果的な贈与方法は変わる
『小規模宅地の特例』とは、居住用(自宅)や事業用の宅地について、その評価が最大8割減になる制度です。居住用宅地の場合の対象は、①配偶者、②同居していた親族、③親に①②にあたる者がいない場合に限り、持ち家のない親族(子や孫など)となります。たとえば高齢の夫婦の一方が亡くなった場合、相続人が配偶者と息子(非同居)だけだった場合は①のケースに該当し、配偶者が相続すれば330㎡まで80%減額できます。
しかし、今回のケースは父親が既に亡くなっており、母親がひとりで住んでいます。この場合、息子が持ち家に住んでいると、この特例は使えません。仮にそういった形で息子が自宅を相続すると8割減特例を受けられず、相続税は大きくはね上がります。
そこで別居している息子の子、つまり孫にまだ持ち家がなければ、孫を養子にするか遺贈すれば③に該当し『8割減特例』の対象となるのです。ただし、今回のケースでは、残念ながら独居で高齢の母親は遺言を残さず他界してしまい、この特例は受けられませんでした。
自宅の耐震基準はよく確認しておこう
さて、少し話は変わりますが、このAさんの自宅は既に築35年以上経過しており、相続人の息子も今後の維持費を考え売却も視野に入れていました。そこで次に登場するのが2016年税制改正大網で創設された“相続した旧耐震基準の家屋を、耐震改修して売却するか、解体し更地にして売却する場合に、譲渡所得の3,000万円の特別控除の特例が適用される”というものです。自宅は旧耐震基準で建てられており、平成31年12月31日までに売却すれば、特別控除を受けられるため、最終的に息子はリフォーム後に転売、特例によって約600万円ほど節約することができました。
こうした特例の背景には空き家が多くなっている現実があります。しっかりと空き家対策をしないと損をしてしまう法律に、2015年に施行された『空き家対策特別措置法』があります。この法律は、危険な空き家を放置しておくと固定資産が6倍にも跳ね上がる仕組みになっています。いざというときのために、遺言と不動産は見直しておくのが最善です。
争族を未然に防ぐ! 遺留分を捻出できないときは「代償分割」の活用を
経営者が相続の際に見落としてしまいがちな「事業後継者以外への財産分与」。事業に関係するもの(自社株や事業用不動産など)以外に目ぼしい財産が特にない場合は、事業後継者以外の相続人に残す財産のバランスを見誤り、“相続”ならぬ“争続”に発展する可能性もあります。今回は争族を未然に防ぐ方法について見ていきましょう。
預金だけで遺留分を補えるとは限らない
ある個人事業主は自宅兼工場(1億円)と預金(2,000万円)の計1億2,000万円の財産を所有しています。配偶者はすでに他界しており、相続人は長男と次男の2人だけです。長男はサラリーマンとして働いており、次男は工場で現在勤めています。経営者の死後、工場を継ぐのは次男となる予定です。経営者としては、事業を継いでくれる次男に自宅兼工場を渡したいところでしょ
う。しかし、長男が納得するとは限りません。
上記のケースだと、遺留分は3,000万円となります。自宅兼工場を次男が引き継いだ場合、預金の2,000万円をすべて長男に渡したとしても遺留分には届きません。足りない遺留分を借金で補おうとすれば、経営が立ち行かなくなる可能性もあります。もちろん、自宅兼工場を売却して現金を渡す方法もありますが、事業自体を継続することが不可能になります。
代償分割を利用する際は贈与税に注意!
そこで考えられるのが、「代償分割」の活用です。
「代償分割」とは、共同相続人のうち1人または数人が遺産を取得し、その人から他の共同相続人に代償金を支払う方法です。なお、この方法で遺産分割する際は、遺産分割協議書に代償分割する旨を記載しておかないと、次男から長男への代償金が贈与とみなされて課税対象となります。代償金を捻出する方法は、生命保険を活用する方法があります。生命保険金は受取人固有の財産ですので、遺産分割の対象にはなりません。受取人を次男に設定しておくことで長男への代償金を支払えます。
ただし、被保険者と保険料の負担者の両者が父親である場合は、保険金に相続税が課税されますが、法定相続人の数×500万円までは非課税となります。なお、保険料の負担者が次男である場合は、所得税(一時所得)が課税されます。保険の加入方法やその他代償分割で困ったことがあれば、お問い合わせください。
父が震災被害で生死不明となった場合、相続で必要となる家裁手続きとは?
Q大震災の時、実家が被災し、津波にのまれて生死不明になった父親がいます。震災が起きてから、まだ1年しか経っていません。しかし、私も実家には戻っておらず、現在実家には、住む人もいません。実家は震災の被害で痛みが激しいので売却したいと考えています。この場合、生死不明の父の相続はどうすればできますか?
A家庭裁判所で失踪宣告の申し立てをしてください。
生死不明となった方の相続をするためには、まず家庭裁判所で“失踪宣告”の申立が必要になります。失踪宣告とは、生死不明の者に対して法律上、死亡したものとしてみなす制度です。
失踪宣告には、二つの種類があります。一つは“普通失踪”です。従来の住所を去り、容易に戻る見込みのないものについては、失踪してから7年間以上生死が分からない場合に限り、失踪宣告を申し立てできます。普通失踪の場合、家庭裁判所は6カ月の期間を定めて生死不明者に“生きている”という届け出をするように公告をしたり、生死不明者のことを知っている人に届け出をするように公告をします。6カ月が過ぎると失踪宣告の審判が行われ、不明者は失踪から7年以上経過した時点で死亡したものとみなされます。
今回の事例のように、戦争や船舶の沈没、震災の被害など死亡の原因となる危難に遭遇し、その危難が去った後、生死が1年以上明らかでない場合、“危難失踪”として失踪宣告の申し立てができます。これは、普通失踪と同じように公告を行いますが、期間は2カ月以上という短期間で行われます。失踪宣告がなされた場合は、災害遭遇時に死亡したものとみなされます。失踪宣告が受理され“死亡が確定”して始めて、相続手続きに移ることができます。
なお、失踪宣告が確定した後に、失踪宣告を受けた人が生きていることがわかった場合、本人や相続人などの利害関係者から請求があれば、家庭裁判所で失踪宣告を取り消すことができます。今回の様なケースに限らず、相続・贈与について少しでも悩んでいることがあれば、是非、お気軽にご相談ください。